Art&Betweens : ものづくりxものがたり

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アート専門の通訳・翻訳を行う活動団体「Art Translators Collective」のメンバーによるリレーコラム。さまざまな国や文化をまたいで活動してきた経験を活かし、グローバルな視点からものづくりの面白さをお伝えします。

古典文学の世界を象るコンテンポラリー・ジュエリー

ロッシュ・マタニ、27歳。

彼女のジュエリーブランド「Alighieri」は、設立わずか二年ながら、既に高級ファッションの先端としてヴォーグ、マリ・クレール、グラツィアなど数々のトップファッション誌に取り上げられ、人気モデルや女優にも多くのファンを持つ。

Alighieriの作品は全て、イタリア文学の巨匠ダンテ・アリギエーリの『神曲』という叙事詩をモチーフにしている。製作を全て自ら手がけるマタニは、英国オックスフォード大学に在学中、『神曲』に出会い圧倒され、その深奥な世界観と無二の詩美をジュエリーで表現しようと思い立ったと言う。

技術的な指導は、一日講座でジュエリーの原型となるワックスの塑造を学んだのみ。あとは自ら彫刻刀やガスバーナーを購入し、ロンドンのファッション業界で働きながら、夜な夜な自宅で鍛錬と模索を重ね、一年後に敬愛するダンテの苗字を社名に借りてAlighieriを設立した。

ダンテの『神曲』は、地獄、煉獄、天国への空想の旅を語る壮大な物語だ。発表以来七世紀にわたり、無数の美術作品が『神曲』を題材として扱ってきたが、その大多数と異なり、マタニのデザインは総じて抽象的である。詩文に抽象的な形を与えるプロセスについて尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

マタニは、詩行や言語表現、喪失感や勇気などの感情のような抽象でも、朧げな形として見えると言う。その脳内のイメージに辿りつくために修正やディテールを加え、「これだ」という確信が湧いた瞬間に作業の手を止めるのだ。

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「私は正式な訓練は受けてないし、スケッチ通りに正確な形を作るのは苦手なの。性格も大雑把だし。(笑)だから作り始めるまでは、自分でもどんな作品が仕上がるのかわからない。」

直感や偶然を取り入れながらも、何らかの「韻律」や必然性に従っているような印象を与えるジュエリーは、まさに具現化された詩だ。

だがAlighieriのジュエリーにはダンテの詩だけではなく、失恋や挫折など、マタニ自身の体験も詰まっている。『神曲』には人間の生の全てが込められていると彼女は話すが、そのような普遍的な内容の詩だからこそ、至る所に自分の姿をも投影してしまうのだ。

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既定の正答を強要する教育や、個人の生き方を縛る社会的なプレッシャーをずっと窮屈に感じていたマタニは、この自由な創作プロセスに安らぎを見つけたという。
他人の期待や社会の常識に捉われず、自分の個性と直感に素直になることで、自身の短所や弱みも受容できるようになったらしい。

傷痕や欠損、多彩な質感と触感、いびつな形貌や非対称的なフォルムは、作家自身の感情や体験の昇華であると共に、自らのありのままと向き合う行為の結晶でもあるのだ。その美意識や、作品に漂うメランコリーは、人生の無常さや人間の不完全さを慈しむ、日本の「わびさび」の美学とも相通じる。

そうした哲学と人生経験が生む作品群は、滑らかなラインや表面、幾何学的に均整のとれた形などが好まれる近年のジュエリーのトレンドとは一線を画する。ジュエリーは古代から世界各地の文化において、愛情や富や神聖さの象徴として着用されてきたが、アリギエーリの作品群の古典的な趣と貫禄は、遺跡から出土された発掘物をも彷彿とさせる。

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古典文学を軸に据え、そのような不朽の美を追求するマタニの流儀は、流行の移り変わりが激しく、常に新鮮味に価値を置くファッション業界の性質とは背反している。

「私は自分の中にある物語を表現したくてジュエリーを作ってるだけだから、流行だとか市場性を意識しても意味がないの。」

独自のスタイルと理念を貫きながらも、Alighieriが短期間で注目を浴びるに至ったのは、やはり彼女の特異な才能と感性、そして意匠の源にある物語と歴史があってのことだろう。

マタニは作品一つ一つに、デザインの元となった『神曲』の詩行やシーンの解説を添えて発送しているが、それは彼女にとって、自らの作品の物語を着用者に託する行為だ。
言葉や音楽のような無形物でなく、ジュエリーのような物が語る物語の魅力は、その物がまた着用者自身の物語の一部になることだとマタニは言う。

決して安くないジュエリーだが、その褪せない美とクオリティーはまさに一生ものだ。
7世紀前にダンテが綴った物語を、マタニが新たな形で「書き継ぐ」ことで生まれたAlighieriのジュエリーは、持ち主に身につけられ、新たな物語として紡ぎ続けられていくのだろう。

 

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赤澤松也(あかさわ・まつや)
幼少期にイギリスに留学し、大学卒業後日本に帰国。多言語への造詣や、文学・言語学・心理学などの見識を活かし、翻訳・通訳者、ライター、コピーライターなど、多様な形で「言葉」と「言語」に携わる。

Art Translators Collective(アート・トランスレーターズ・コレクティブ)は、アート専門の通訳・翻訳およびそれに関連する企画の運営などを行う団体。
同時代を生きる当事者として表現者に寄り添い、単なる言葉の変換を超えた対話を実現していく翻訳・通訳を目指し活動している。
http://art-translators.com/

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