“デザインをしない、デザイン”革ブランド「SHOJIFUJITA」が体現する、作り手と使い手の未来

“デザインをしない、デザイン”革ブランド「SHOJIFUJITA」が体現する、作り手と使い手の未来


“自分の個性を出す”こと。それはデザイナーにとっての生命線です。

誰も思いつかない斬新な発想でデザインされたプロダクトは、時に人々を驚嘆させ、魅了します。

しかし、 “斬新な発想をするだけがデザインじゃない”ということを体現するデザイナーが、日本のものづくりの世界に存在します。

レザーブランド「SHOJIFUJITA」のデザイン・製作を手がける藤田勝治さん、その人です。
素材そのものの良さを活かし、無駄を一切省いたデザインのプロダクトを生み出す彼は、どのような想いを持って“デザイン”に対峙しているのでしょうか。

「四角だけが持ちやすい形じゃない」コクヨとコラボした六角形のケースの開発秘話

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▲コクヨとのコラボアイテムのベースとなった、六角形のプロダクト。写真のアイテムはPIEACE-71(税込20,520円)という名を冠した財布だ。藤田さんのミニマリズムが行き届いた作品と言えよう。

―藤田さんの手がけたプロダクトで最近特に有名なのは、コクヨとコラボした、六角形のケースです。色といい、形といい、素晴らしいです。どのようなプロセスでこのデザインにたどり着いたのでしょうか。

ありがとうございます。
これは、もともと自分のブランドにあったアイテムに手を加えて、コクヨさんの要望に合う形にしたものなんです。元になったものを最初に作ったきっかけは、「持ちやすい形って四角だけじゃないんじゃないの?」と考えたことですかね。持ったときに手にフィットする形を試行錯誤しながら突き詰めていったら、こんな変わった形になってしまった(笑)。

―斬新なデザインなので、初めて見た時はびっくりしましたよ!コクヨとのコラボアイテムの場合、具体的にはどのように手を加えたんですか。

コクヨさんから出る商品ということで、より“文具”の要素を加える必要がありました。ですから、「何を入れるのか」といったことや、「取り出しやすさ」を重視して、形を変えたんです。パスポートや母子手帳を使って出し入れしてみたりしながら。普段とは違うアプローチで作り込んでいったので、エキサイティングな経験でした。

―持ちやすさだけでなく、取り出しやすさにも配慮されたデザインになったわけですね。エッジがきいた、洗練されたフォルムを見ていると、藤田さんはデザインに相当なこだわりを持っていらっしゃるように見えるのですが。

私のデザインコンセプトは、 「デザインしない、デザイン」です。

「使う人に革を育てほしい」という想いから生まれる、藤田さんのデザイン哲学

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―「デザインしない、デザイン」……!それってデザインするんですか?しないんですか?

ちょっと分かりにくい表現ですよね(笑)。

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―すみません、混乱してしまいました(笑)“デザインをしない”ことがデザインになっているということですか。

そうです。例えば木や雲とか、自然界にあるものに対して、「これは誰がデザインしてるんだろう?」って思いませんよね。僕はそういう、自然に限りなく近い形を目指して商品を作っているんです。

革は1点1点その表情が違う。それが魅力です。僕はそれを大切にしたい。色も時間とともに変化していきますし、革は育っていきます。使う人達に革を育ててほしいので、商品はなるべくゼロの状態でお客様に渡したいんです。だから 僕の個性もゼロにしたい

使う人、藤田さん、両者にとって理想的な“幸福なる没個性”

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―ちょっと待ってください。「個性をゼロに」って…。デザイナーの方なら、誰しも個性を作品に反映させて、自分の“色”を出したいと思うのではないですか。

デザインしない方がラクだと思っているんです、僕は。
実は今のブランドを立ち上げる前、仕事が煮詰まって、ものづくりの世界から3〜4年ほど離れたことがありました。“大量消費”を前提としたファストファッションが隆盛の時代だったので、「ブランドを大きくしよう」とか「大量に作ってお金を稼ごう」という流行に乗ったものづくりをしていたのですが、自分のやりたいことって本当にこれなのかなと思うようになって。

―その当時は今と違い、“デザイン”したものを作っていたんですか。

はい。
デザインをしているときはもちろん楽しいんです。「いいものが出来た!」という達成感もあって。でも、自分の記憶にインプットした、ぐちゃぐちゃしたものをデザインへとアウトプットする作業って、ものすごく自分の身を削る作業です。続ければ続けるほど、自分を失ってしまう気がしたんですよね。
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どちらかというと僕は、デザインで一生やっていくというよりは、 自分の基盤を仕事以外のところに持ちたい。自分の生活とか。デザインをしていくと、どうしても仕事が中心になるんですよ。そういう生き方はあまりしたくない(笑)。

個性を出さないことが、時間とともに育っていく革を扱う上で大切だとも思うので、それから「デザインしない、デザイン」というコンセプトで製品を作るようになりました。

―「個性をゼロにする」ことが、結果として、お客さんにとっても藤田さんにとっても理想的な形だったのですね。ですが、完全に“個”を消すのは、そう簡単ではありませんよね。

作っていると、やはり“個”が出てしまうことはあります。ただ、それは自分の中だけで消化させればいい。人に使ってもらう必要はないと思うんです。最初に出来上がるものは“個”が入ったものなんですが、そこから「デザインしない、デザイン」というコンセプトを思い浮かべながら不要なものを削っていきます。そうして最終的な商品になるんです。

「不必要なものを削る」ことを体現させた、トートバッグ

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▲SHOJIFUJITAの代表的アイテムであるトートバッグ「DEARMYFRIEND – 02」59,400円(税込)。ハンドルの長さなど、使い手の意思に応じてある程度のオーダーメイドが可能だ。使い手に寄り添う、という藤田さんの透徹したものづくりの思想が垣間見える。

―なるほど、“不要なものを削っていく”ですか。藤田さんの作品の中で一番その考え方が反映されているものはなんですか。

このトートバッグがそうですね。
友人から「トートバッグを作ってほしい」と言われたのが始まりで、そこからだいぶ変えているんです。裏地や持ち手の作りも。どんどんそぎ落としていって、最後は無に近い形になっていきました。

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“最初に出したらそのまま”ではなく、ちょっとずつ変えていく。本当に分からない程度に、ちょっとずつ変えてバランスを整えています。申し訳ないことではあるのですが、お客さんが使っているのを見て、「ちょっと変えたほうがいいな」とか、「もっと変えたら持ちやすくなるだろうな」とか。吸収させてもらっています。

「待つ時間も楽しんでもらいたい」一つひとつを手作業で作る、藤田さんのこだわり

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―藤田さんは、すべてを手作業でやられているんですよね。

はい。最初は裁断から始まるんですけど、それが一番緊張するんですよ。まっすぐ切れなかったら、そのバッグは上手くいかないので、「絶対にミスしちゃだめだ」というプレッシャーがあります(笑)。ミシンも癖が強くて、馴れるまでに時間がかかるんです。簡単そうに見えますが、等間隔に縫っていくのは難しいんですよ。こうしてさまざまな工程を経て、ようやく1つのものが完成するんです。バッグは1日1個作るのが限界ですね。

―今よりもたくさん商品を作って、大勢の人に届けたいという思いはないのですか。

あまりないですね。
1個作るのに時間がかかるので、必然的にお客様に待ってもらう時間が長くなるんですけど、そうすると、本当に欲しい人達だけが注文してくれるようになるんです。大切に使っていただいてるなと実感しています。お客さんには申し訳ないですけど、待つ時間も楽しんでもらいたい。想像が膨らむというか、“ファスト(Fast)”ではない時間を楽しんでくれたらといいな、という思いはありますね。

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待ってものを買う、という時代になると、必然的に必要なものとそうじゃないものがはっきり分かれてくると思うんです。大量に作って大量にさばくっていうよりは、ある程度の受注を受けて作る。そういうやり方のほうが、今後の自分もそうですし、世の中のやり方としても無駄がない。私にはそう思えます。

目の前の目標を消化することが、お客さんに寄り添うものづくりにつながる

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―最後に、藤田さんの今後の目標を聞かせてください。

特に長期的な目標は持っていないんです。目標はその日その日に出てくるものなので。目の前にある目標を日々消化していくことで、明日につながればいいなと思っています。

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後は、お客さんに少しでも喜んでもらえるように努力したいです。なるべく応えられることには応えて。僕はすごくシンプルな人間だと思うんです。お客さんに喜んでもらえたら嬉しいし、生活できる分のお金があれば十分です。お客さんに寄り添う形で、1つ1つの商品をこれからも大切に作っていきたいです。

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MAISON SHOJIFUJITA
SHOJIFUJITA

【編集後記】藤田さんが教えてくれた“ものと人が共に育っていく”未来

個性を出すのではなく、自然に限りなく近づけたデザイン。
そして、お客さんに寄り添い、一つひとつを手作りで生み出すこだわり。

こうした信念があるからこそ、使う人が長年愛用する、世界でたったひとつの商品が生まれるのです。

大量にものを消費する、という価値観は徐々にその棲息期間を終えようとしています。
使うものを大切にして、“ものと人が共に育っていく時代”
少し未来にある、作り手と使い手のあるべき関係が、SHOJIFUJITAのレザーから見て取れるはずです。

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