当たり前の課題を解決せよ!芯が折れないシャープペン「デルガード」はこうして作り出された

当たり前の課題を解決せよ!芯が折れないシャープペン「デルガード」はこうして作り出された


「もう、折れない。」
2014年、シャープペンに革命が起こりました。それは誰もが使ったことのあるシャープペンという日用品が迎えた、再発明と言って過言ではありません。

シャープペンは、強い筆圧が加わると“芯が折れる”のが当たり前。私達ユーザーも、シャープペンの芯が折れることは「仕方ない」ことだと考え、もはや”課題”として認識していなかったかもしれません。しかし、もはや大前提として存在するこの課題を解決したプロダクトがあります。

その名は「デルガード」。商品を開発した、ゼブラ株式会社の研究開発本部・月岡之博さんに、開発の舞台裏を伺いました。

あらゆる方向の筆圧から芯折れを防止!デルガードの“折れない”仕組み

ZEBRA-13▲誕生から間もなく2年。進化を続け、新たなラインナップも登場している。価格は450円(税別)~1000円(税別)といずれもお手頃。

―デルガードは、2014年11月の発売後、たった1年間で300万本以上の売り上げを記録したと伺いました。爆発的ヒットになった要因である、“芯が折れない”仕組みについて教えていただけますか。

月岡:はい。芯が折れるのを防ぐために、デルガードでは“垂直方向の力”と“斜め方向の力”の両方に対して、芯を守る機構を作りました。図をご覧ください。

デルガード仕組み

月岡:図の上部は垂直方向、下部は斜め方向の力が加わったときに、デルガードがどのように作用するかを示しています。垂直方向の力に対しては、軸に内蔵されたスプリングによって、芯が軸の中に引っ込むようになっています。一方、斜め方向の力に対しては、先端の金属部品が自動で出てきて、芯を包み込みガードします。

この2つの機能によって、あらゆる方向の力から芯が折れることを防いでいるんです。

「これまでにないシャープペンを」商品の“課題”と開発者の“思い”が重なる

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―実際に使ってみると、説明いただいた機構の動きがよく分かりますね。“芯が折れない”シャープペンを作ろうというアイディアが出たのはいつ頃だったのですか。

月岡:最初に着手したのは2009年のことでした。当時の弊社は、“シャープペン”の市場では後発でした。商品の企画側には、既存商品について調査を重ねる中で、“芯がすぐ折れてしまう”という課題が、開発側には、“何か付加価値のある商品を作りたい”という思いがありました。双方の課題や思いが一致して生まれたのが、“芯が折れない”というコンセプトだったんです。

―確かに、“芯が折れない”というのは、付加価値という観点からも申し分ありませんね。2009年に案が出て、2014年に製品化…5年もの歳月を必要としたのですね。開発に相当苦労されたことが分かります。

月岡:そうなんです。
部門にいたメンバー10名ほどでアイディアを出し合って生まれたコンセプトだったのですが、なかなか形にすることができなかった。一度は開発を中断したこともありますが、紆余曲折を経て、ようやく製品として世に出すことができました。5年かかってしまいましたけど(笑)。

“漢字”の国、日本で折れないシャープペンを作るのは難しい!?

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―製品コンセプトの決定後、5年間どのような流れで開発に取り組んでいったのでしょうか。

月岡:デルガードの場合、製品の機構を考える上で、“どのようなシチュエーションで芯が折れるのか”を、まず調べる必要がありました。普通に文字を書いているとき、走り書きをしているとき、床に落としてしまったとき…。調べていくうちに、“漢字を書く”行為の中に、芯が折れやすくなるポイントを示すヒントが隠れていることが分かってきたんです。

―“漢字を書く”行為に隠されたヒント…?どんなことが分かったんでしょうか。

月岡:文字には「とめ、はね、はらい」がありますよね。これらの所作を行うとき、筆圧やペンの角度が変わり、芯が折れやすくなるんです。漢字の場合、それが顕著に表れました。英語などの筆記体は、流れるように文字を書いていくので、筆圧やペンの角度の変化はあまり起こりません。こうして私達の中で、「どんな“筆圧”や“ペンの角度”でも芯が折れない製品を目指すべきだ」という方向性が決まったんです。

―“漢字”を用いることによって大きく変化する、筆圧やペンの角度に着目したというわけですね。言われて初めて気づきましたが、確かに漢字を書くときの方が、力の強弱が大きくなる気がします。ここから、製品の構造を考える段階に入っていくのですね。

月岡:はい。開発は本当に試行錯誤の連続でした。

試した組み合わせは60種類以上。いつも通りに使って“折れない”という理想の追求

ZEBRA-12▲最初期のプロトタイプ。一部は3Dプリンターで製作されているのだそう。

―見本のようなものがたくさんありますが、これは一体何ですか。

月岡:これは、デルガードの製作過程で作った、プロトタイプです。当時、私はまだチームに加わっていませんでしたが、最初は、芯が折れないためにはどうしたらいいのか、まさに試行錯誤の段階だったのです。完成形のような、芯を守るという発想とだいぶ違って、これは筆記中にペンの中で軸が左右に動くようになっています。

―力を分散させることによって、芯が折れるのを防ごうとしているのですね。最初の時点では、機構そのものが全然違っていたということに驚きました。

月岡:そうなんです。ですが、芯が折れないという効果が得られず、ここで一旦開発は中断。その後再開し、どのような構造の組み合わせにすれば、芯折れを防止できるのか、60種類以上も試しました(笑)。ようやく出来上がったのが次のものです。

デルガード▲完成形とほぼ同じ仕組みで作られた試作品。3本を比較すると、2カ所あるバネの長さが異なっていることが見てとれよう。芯を守るシステムが作動するのに必要な荷重の最適解を探るために、気の遠くなる程多くの組み合わせを試しているという。

―最初のものより、だいぶ完成形に近づいた気がします。

月岡:この段階で、“芯が折れない”という効果は実現できました。ですが、まだガードをすることしか考えていなかったんですよ。だから書いても、すぐにふらふらして書けないくらいにガードが動いてしまう。効果を発揮するために、使いにくくなってしまっては本末転倒です。皆さんに使っていただける商品を作るために、私達は“今まで通りの使い方をして、効果が感じられるもの”を作ることを目指しました。

具体的には、中に搭載するバネの圧を調節し、「どの程度の力を入れたときに芯が折れないシステムが作動するか」を研究しました。作動するのに必要な力が大きすぎれば、作動するまでに芯が折れてしまうかもしれませんし、ほんの小さな力で作動してしまうと、使いにくくなってしまいます。100種類以上のバネの組み合わせを試し、どのくらいの力でシステムが作動するのが適切なのかを探っていったんです。

ZEBRA-9▲従来の製品(左)と、デルガード(右)の部品を分解したもの。部品数の違いは一目瞭然。

―“芯が折れない”という効果のために、使いやすさが損なわれないよう、試行錯誤されたんですね。

月岡:はい。こうしてようやく今のデルガードが出来上がりました。従来の商品と、デルガードを部品に分解・比較したものがこちらです。弊社の既存の商品と比べても、部品の数が圧倒的に多いのが見て取れます。芯が折れないようにするためには、ここまで複雑な構造が必要でした。

実は生産段階に入ってからも、使用時に出てしまう小さな音をなくすなど、細かい修正をしなければならなくなったりと、大変だったんですが、おかげで納得できる商品を完成させることができました。

手の不自由な方からの手紙。人々の生活を豊かにするものづくりの本質に触れる

ZEBRA-14▲芯の細さは0.3、0.5、0.7の3種類。芯の細さによって、中の部品のつくりも微細な変化を加えているという。

―数々の困難を乗り越え、2014年に発売開始。デルガードが飛ぶように売れていく様子をご覧になって、どんな気持ちになりましたか。

月岡:性能面ではいいものが出来たと自負していましたが、製品化されたときに果たして受け入れられるか、とても心配していました。ですから、順調に売れている様子を見てホッとしたというのが正直な感想ですね(笑)。商品を使った方から感想の手紙がたくさん送られてきて、本当に嬉しかった。中には、読みながら泣いてしまったものもありました。

―もしよろしければ、その手紙の内容を教えていただけますか。

月岡:手紙をくださったのは、手が不自由な方でした。「今までどんなシャープペンを買っても、すぐに芯が折れて不便だった。デルガードを使ったら、きちんとした字が書けるようになった」と書かれていました。開発をしているときには、手の不自由な方のことまでは想定していなかったんです。“芯が折れない”という課題解決によって、まさか手の不自由な方にも喜んでいただけるとは、思いませんでした。

―ものづくりによって、生活に不便を感じている人達の課題を解決する。ものづくりのあるべき姿であるような気がします。

「当たり前だと感じるものこそ、解決すべき課題」ゼブラが困難な課題に挑戦する理由

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―最後に、月岡さんのものづくりに対するお考えを伺いたいです。シャープペンを使う人にとって、芯が折れることは当たり前で、仕方のないことだと思っているはず。ユーザーでさえ諦めているそんな問題に挑戦しようとする姿勢には、月岡さんの強い意志のようなものを感じるのですが。

月岡:私は、ユーザーが“当たり前”だと感じている課題こそ、解決すべきだと思うんです。ユーザーが「もっと〇〇だったらな」と口に出す顕在化した課題というのは、解決は比較的に容易にできます。

一方で、ユーザーが諦めている課題というのは、容易に解決することはできません。しかしその分、解決したときにユーザーが感じる喜びが大きなものになるんです。作る製品の根底に常にあるのは、ユーザーの不満。私達はこれからも、技術的な問題に対して妥協することなく、ユーザーの不満に真摯に向き合っていきたいです。

【編集後記】ユーザーが諦めても、開発者は諦めない。

ZEBRA-2

大ヒット商品「デルガード」製作の舞台裏には、開発メンバーによる度重なる試行錯誤がありました。

デルガードがなぜ、一過性のブームに終わることなく、現在もユーザーから高い評価を得ているのか。それは、「ユーザーが諦めるほどに、潜在的な、そして大きな課題を解決したから」です。

その課題解決は、シャープペンそのものの常識を変えてしまいました。
月岡さんが所属するゼブラの研究開発チームは、これからも私達ユーザーの課題を解決し、生活に豊かさをもたらしてくれるでしょう。

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月岡之博
ゼブラ株式会社 研究開発本部・研究部
主任研究員 
1990年(平成2年)4月入社。「クリップ-オン マルチ」「シャーボX」等、ゼブラの主力商品の開発を担当。
「デルガード」商品ページ

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