“金沢への注目”を持続可能に。古書店「serif s」店主が目指す、クリエイティブ都市・金沢の作り方

“金沢への注目”を持続可能に。古書店「serif s」店主が目指す、クリエイティブ都市・金沢の作り方


タイポグラフィの書籍を集めた古書店&ギャラリー「serif s(セリフエス)」が、金沢にオープンしました。

この古書店を運営するのは、東京・品川区に事務所を構える、株式会社セイタロウデザイン。なぜ金沢という場所に目をつけたのか、なぜ本屋をすることになったのか。そこには、「金沢を人が根づく街にしたい」という、店主の強い思いがありました。

店主を務める、セイタロウデザイン金沢の代表取締役、宮川智志さんに詳しくお話を伺いました。

タイポグラフィの本しか置いていない!?「serif s」ってどんなお店

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―とてもおしゃれな空間ですね!本屋さんだということを忘れてしまいそうです。

宮川:ありがとうございます。「serif s」は、タイポグラフィの本を扱う専門古書店として、2016年3月にオープンしました。 お店を運営する私たちセイタロウデザインは、グラフィックやweb、建築、インテリア、プロダクトなど、デザインに関わるのさまざまな仕事をしています。デザインを作る過程で大事にしている“タイポグラフィ”をコンセプトに、何か発信できないかということで、オープンすることになりました。

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宮川:建物は100年以上前に建てられたもの。南陽堂書店という、街の名物古書店だった物件をお借りし、活かせるところはそのままの状態にして使わせていただいています。

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―美しくリノベーションされていますが、このドアなど昔のマテリアルを残している部分もあるんですね。

宮川:そうです。他にも、南陽堂書店の店主さんがスクラップしていた、当時の新聞広告を見ることができます。これ、とても貴重な資料なんですよ。ところどころに昔の名残が感じられる空間にしています。

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デザインにおける“文字の価値”を知ってもらいたい。「serif s」がタイポグラフィに注目した理由

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―タイポグラフィには普段あまり馴染みがないのですが、あえてそのようなものを発信するというのは、何か意図があったのですか。

宮川:おっしゃる通り、デザインに関わる仕事をしない限りは、文字を意識する機会ってあまりないですよね。デザインの世界において、タイポグラフィや文字の組み方というのは、デザインの良し悪しを大きく左右する重要なものなんです。私たちは、こうした一般的にあまり認知されていない「デザインの価値」を、外に向けて発信するためにお店を作りました。

お店に来てもらったお客様に、「文字っていいな」「フォントって面白いな」と感じてもらいたい。デザインにおけるタイポグラフィの面白さを知ってもらうことによって、デザインの感度が高くなると思うんです。その感覚がデザインの作り手だけでなく、受け手にも浸透していくことによって、クリエイティブを生みやすい街にしていきたいと思っています。

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宮川:お店の中にある活版印刷機は、誰でも使っていただくことができます。実際に使ってみると、力の入れ具合で文字の濃さが変わる体験をしたり、文字を組み替える大変さが分かったりと、楽しいですよ!ワークショップなどを開催して、文字の面白さに触れるきっかけを増やしていきたいと思っています。

地元に住んでいるからこそ感じる。「今、注目されている街」金沢が抱える課題

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―「クリエイティブを生みやすい街に」というお話がありました。目標を達成するにあたって、なぜ金沢という地域を選んだのでしょうか。

宮川:実は僕、石川県出身なんです。東京で働いていたのですが、最近家を石川に移して、本格的にこっちを拠点に仕事をしようとしていました。そんなときに、ちょうど社内で「セカンドオフィスを作ろう」という話が挙がっていたこともあり、タイポグラフィ専門の古書店&ギャラリー兼セカンドオフィスという形で、「serif s」を金沢にオープンすることになりました。

セカンドオフィスはスペースの貸し出しもしており、一緒に仕事をしたら何か面白いことができるような人が集まっています。金沢で仕事をするためには、人とのつながりがとても大事。ようやくチームが1つできたところなので、今いる人たちで何か大きなプロジェクトを手掛けていきたいと思います。

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―いろいろな要素が上手くかみ合って実現したんですね。金沢21世紀工芸祭というイベントが最近開かれていたりと、金沢は“デザイン感度が高い街”というイメージが強くあります。クリエイティブな仕事をするには、ぴったりの環境なのではないですか。

宮川:工芸祭は、個性豊かなものを生み出すクリエイターの方が多く出展されていて、素敵なイベントですよね。北陸新幹線が通ってからまだ2年、ということもあり、「全国から今注目されている街だな」という感覚はしています。

一方で、金沢は周りからの高い期待に応えきれていないのも現実。ずっと金沢で暮らしている地元の友人からは、仕事よりも家庭や休日を優先させているという話をよく耳にします。それ自体はとても素晴らしいことなのですが、「できれば、自分がやりたいと感じる仕事をしたかった」と口にする人が多いんです。

金沢はデザインや工芸の街として周囲の注目を集めていますが、いざ「仕事をする」という話になったときに、理想とする仕事ができる選択肢が少ないんです。なので、やりたいことが金沢ではできない人や、高い能力を持っていて大きな仕事をしたい人が、東京をはじめとした大都市に流れていってしまっているのが現状です。他の地方都市と変わりはないんです。

自分の“伸びしろ”が感じれる街へ。地域を活性化させるために必要なこと

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―私たち外の人間から見えるイメージからはあまり想像できません…。先鋭的な仕事をする環境としては、まだまだ金沢は未発達なのですね。

宮川:そうなんです。将来を担う若い人たちには、そのような思いをしてもらいたくはありません。人が地域に根付くためには、「ここで働いていたら、自分は将来こんな仕事ができるようになる!」という、自分の“伸びしろ”が感じられるような街になる必要があるのではないでしょうか。

自分の可能性の広がりを感じることができれば、わざわざ住み慣れた街を離れる人も少なくなると思います。金沢はとても住みやすい街ですからね。

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―自分の“伸びしろ”が感じられる街…。確かに自分の望む仕事をしたい人にとっては、大切な要素である気がします。地域が活性化していくためには、どのようなことが必要になると考えていますか。

宮川:地域として盛り上がりを見せている場所では、決まってコアになっている人がちゃんとワークしているという状況があります。私もコアの一部として、金沢を盛り上げていきたいです。そのために、私も地域の人とともに汗を流し、街のことを真剣に考えていきたい。金沢の人たちと一緒にものづくりをしていくことが、地域としての盛り上がりにつながるのではないかと考えています。

金沢は新幹線の開通時に起こった1回目の盛り上がりを終え、いま再び、人々が訪れるようになっています。ここで、人々が金沢に来るサイクルを確立させ、街への注目を持続可能なものにしなければ、今後大きな変化を金沢で起こすことは難しくなるでしょう。そのためには、これまで金沢にはなかった、クリエイティブを生み出す“ハブ”が必要になると僕は思っています。

「serif s」としては、「長く続ける」「人に伝える」の2つを大切にしていきたい。本屋自体の魅力によって、デザインの価値を発信する。そしてさらに本屋としての機能の超え、この場所を起点とした新たなクリエイティブを生み出す。そんなハブとしての役割も、今後果たしていきたいです。

【編集後記】クリエイティブが生まれる“ハブ”として。金沢に人が根づく未来に向けて

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東京のデザイン会社が、金沢に古書店をがオープンした不思議さから始まった今回の取材。
金沢に住む人だからこそ分かる、地域の課題を真摯に見つめた宮川さんのお話が印象的でした。

地域に人が根付くためには、「仕事で将来、“この場所で”こんなことができる」という可能性を感じさせる場所でなければならない。

そうした場を実現させるために、宮川さんをはじめとした「serif s」はデザインの素晴らしさを発信し、新たなものづくりを金沢という地で創造するための、ハブとして機能しているのです。金沢に人が根づく未来の実現に向けて、宮川さんのこれからの挑戦を楽しみにしたいです。

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セイタロウデザイン金沢・代表取締役/serif s 店主
宮川智志

serif s
住所:〒920-0902 石川県金沢市尾張町1-8-7
電話番号:076-208-3067
営業時間:平日11:00 ~ 19:00 / 土日 12:00 ~ 18:00
定休日:水曜日

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