Art&Betweens : ものづくり×「文化とタブーのリサーチ」

Art&Betweens : ものづくり×「文化とタブーのリサーチ」


アート専門の通訳・翻訳を行う活動団体「Art Translators Collective」のメンバーによるリレーコラム。さまざまな国や文化をまたいで活動してきた経験を活かし、グローバルな視点からものづくりの面白さをお伝えします。

社会のタブーを可視化させる「道具」をつくりだすデザイン
オランダの気鋭デザイナー、ジュリエット・ホウヘンの世界とは?

ジュリエット・ホウヘンは、1990年オランダ・ウィレムスタット生まれで現在アムステルダム在住の若手気鋭デザイナー。

自らを「DESIGN ANTHROPOLOGIST(デザイン人類学者)」と定義づけ、アムステルダム・フリー大学に修士課程在学中ながらも、2014年には銀座MIKIMOTO GALLERYならびに原宿UltraSuperNewギャラリーでオランダ王国大使館主催展覧会の出展作家に選出されるなど、まばゆい注目を集める期待の新人です。

アムステルダムのアートスペース・FONTRANDANAで、『FRAGILE THINGS(儚いものたち)』と題した個展が先月行なわれたばかりのジュリエット。その展覧会に向けた本人のステートメントは以下のようなものでした:

「『デザイン人類学者』と自らを定義づけている私は、安楽死やタブー、それらを取り巻く疑問や恐怖の分析を行なっています。

私たちが現在とっている安楽死への対処は、最良の方法でしょうか? 私はオープンに論じ合うべき議題だと考えています。

安楽死は、規範整備や堪え難い物理的苦しみのみの議論に制約されるべきではありません。「尊厳ある人生の終わりを愛する人と共有できうる選択肢」についての議論であるべきです。そのような選択肢は、極めて個人的かつ状況次第なもの、つまりひとつの画一的な法で定められるものには成らないのではないでしょうか。

安楽死はおそらく永遠に難しい話題でしょうが、デザインは、この論ずべき重要なテーマについての会話を引き起こす仲裁者の役割を担えるのかも知れません。」


 

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例えば、代表作品のひとつ《Fairytales or Happily Ever After?》は、プロッターで印刷されたハードカバー本。75ページの中に、イラスト・文ともにジュリエット自身が手掛けた4つのおとぎ話が描かれています。おとぎ話は「Happily Ever After」=「〜となりましたとさ。」の定型文でハッピーエンドを迎えるのが通例ですが、この本ではどうして人生の終わりを「wish = 願」わなくてはいけないのか、それはどんな旅になりうるか? というお話が収められており、「あたりまえ」を日々構築中の子どもたちの思考にもう一段階別の考え方をごく自然に提示しています。


 

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また《Tearcatcher》という代表作は、「涙を受け止めて測量する道具」として考案されています。安楽死を論じる際に指標のひとつに挙げられるのが「堪え難い苦痛」ですが、物理的に測量された数値のみを元に判断が進められ、精神的苦痛は軽視されがちな現状があることをリサーチしたジュリエットは、以下のコメントと共にこの作品を発表しました。

「心が感じる痛みは、『本当の痛み』では無いのか? 『堪え難い苦痛』なるものを定義づけるのは誰か? 内面的な痛みが測量され得るならば、果たして落とされた涙の量は心痛の測定基準となり得るだろうか?」


 

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また革/スチール/ナイロン製歯車でつくられた装置に、指を入れて、取っ手を回すと、「わずかな愛撫をシミュレーション」できる道具として開発されたのは、《Mechanical Affection》という作品。以下のコメントと共に発表され、「会話を引き起こす仲裁者の役割」としてデザインを行なうジュリエットの真骨頂が垣間見えます:

「安楽死の問題を抱えることになるのは、多くの場合、近親者になります。愛する者の命に必死にしがみつく人。人が、物理的な存在以上でも以下でも無いと言えてしまいそうなときには? 治療、投薬、医師たちによる絶え間ない延命の努力の全てを投じても元の生活には戻れないときには? この装置が行なうのは、ささやかな撫ぜをシミュレートし、機械による愛情表現をつくりだすこと。あえて手放すときは、いつか来る?」


 

材料や技術の進歩により、日々進化をしつづける「ものづくり」ですが、そこに「文化とタブーのリサーチ」が掛け合わると思い掛けない深みを生み出します。物語や会話を紡ぎ出すジュリエット・ヒューゲンの世界、いかがでしたでしょうか?

*オランダ・アムステルダムFONTRANDANAにて行なわれた個展『FRAGILE THINGS 』は先月2月27日に終了したばかりですが、公式ウェブサイトでは他の作品もみられます。

http://juliettehuygen.com/

世界中のあらゆる「ものづくり」の奥深さをお届けしていくArt Translators Collectiveによるリレーコラム。それでは、来月もお楽しみに!


 

河西香奈(かわにし・かな)
KANA KAWANISHI ART OFFICE/GALLERY代表。
2006年よりRizzoli New Yorkの東京コーディネーターとして書籍編集に携わり、アーティストマネジメント・編集事務所及び展覧会企画財団を経て、2014年に独立。
現代美術ギャラリー・ディレクターとしての視点を活かしながら、出版物の企画/編集、国内外の美術館・財団・招聘機関等の通訳や翻訳を行なう。

Art Translators Collective(アート・トランスレーターズ・コレクティブ)は、アート専門の通訳・翻訳およびそれに関連する企画の運営などを行う団体。
同時代を生きる当事者として表現者に寄り添い、単なる言葉の変換を超えた対話を実現していく翻訳・通訳を目指し活動している。
http://art-translators.com/

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