誰もが想像をカタチにできる!”ものづくり系女子”神田沙織さんに聞く、カジュアルものづくりのいま

誰もが想像をカタチにできる!”ものづくり系女子”神田沙織さんに聞く、カジュアルものづくりのいま


「工場とか?職人さんがやるものでしょ?」

普段ものを買う立場にいる私たちは、“ものづくり”という言葉を聞くとこう答えるでしょう。確かに、かつて、ものづくりをするには、熟練の技術やセンスが必要でした。しかし、今はどうでしょうか。3Dプリンターをはじめとした、機材の進化と普及によって、ものづくりはもっとカジュアルで気軽なものになりつつあるのです。

今回お話を伺うのは、“ものづくり系女子”というコミュニティを立ち上げ、ものづくりの普及活動を広く行ってきた 神田沙織さん。最初に就職してから現在にいたるまで、“ものづくりの世界”に常に身を置いてきた彼女は、いまものづくり界に起こっている変化について、どのように感じているのでしょうか。

「3Dプリンターに魅せられて。」神田さんがものづくりの世界に足を踏み入れたきっかけ

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―“ものづくり系女子”コミュニティの立ち上げをはじめとして、さまざまなアプローチでものづくり界に貢献されていらっしゃる神田さんが、ものづくりの世界に踏み入れるきっかけとなった出来事を教えてください。

神田:私は父の影響で、小さな頃から家電が好きでした。新しく父が買ってきたものを見て「あ、なんかかっこいい!」とか言っていたのを、おぼろげに憶えています。大学までは、ものづくりとは関係のないところにいたのですが、就職活動にさしかかったときに、「ものを作る会社もいいな」と思って、いろいろ説明会を聞いて回っていたんです。

そうしたら、3Dプリンターでロボットの部品を作っている映像を早回しで見る機会があって。衝撃を受けました(笑)。「ものづくりの未来はここにある!」と、そのとき直観的に思って、話をいろいろ聞いてみたんです。巡り合わせもあって、BtoB向けに3Dプリンターのサービスを提供する会社に入ることができました。これが、私が“ものを作る側”の世界に足を踏み入れたきっかけです。

会社生活のはじまり。新たな営業形態を模索する中で、3Dプリンターの可能性を見つける

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―就職活動中に3Dプリンターとの運命的な出会いをされたのですね。神田さんは入社した会社でどのような仕事をなさったのですか。

神田:3ヶ月の研修期間中に、発表する機会がいくつかあったのですが、私のプレゼンを評価してもらったこともあり、セールスエンジニアリングという営業の部署に配属されてしまいました。今思うと、配属された部署がそこで本当によかったと思っているのですが、最初は戸惑うことばかり。上司について行っても、用語が分からないから、何を言っているのか理解できないんです(笑)。そんな状態からのスタートでした。

―用語が分からないのは辛いですね(笑)。思わぬ形で営業職に配属されたとのことでしたが、仕事は楽しかったですか?

神田:楽しかったです。私が入社した当初から、3Dプリンター業界は目まぐるしく変化していたので、知識を身につけるのは大変でしたけど、「今は3Dプリンターを使ってこんなこともできるんですよ!」とお客様に提案して、採用してもらえたときはとても嬉しかったです。

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神田:あと、その会社はちょっと変わっていて、女性社員数名でチームを作って、新しい営業の形を模索しようとしていたんです。私もそのチームにいたのですが、「バレンタインデーに、3Dプリンターを使って何かやってみたい!」という話になって。ハート型のマグネットを作って、チョコと一緒にお客様にプレゼントしたんです。そうしたら、思いもよらず大好評でした(笑)。

当時3Dプリンターで作るものは、産業用のものばかりだったのですが、「個人用としてもっと自由にものづくりができそう!」という可能性を感じましたね。

自分の表現の一歩先をいく表現を。機械の発達とともに、ものづくりはより身近なものへ

img_3221▲神田さんが代表を務めるFab施設「Little Machine Studio」では、3Dプリンターをはじめとした機械と気軽に出会えるようになっている。

―産業用として使われはじめた3Dプリンターも次第に低価格化し、今では個人での使用もできるようになりました。テクノロジーの発達によって誰もがものづくりに参加できるようになりつつある現状を見ていると、“ものづくり”という言葉が指す意味が、どんどん広がっている印象を受けます。

神田:そうですね。以前はものづくりというと、“製造業”というイメージが強かったですが、今はもっとカジュアルな意味で使われるようになってきていると感じます。私自身は、昔からものづくりという言葉をポップに捉えていました。バレンタインに作ったハートのマグネットもそうですが、会社で働く中で、「ものづくりをこういう風に広めていきたい!」というイメージが自分の中でどんどん具体化されていったんです。「ものづくり系女子」というコミュニティを作ったのも、自分がものづくりに対して抱いている思いを表現したかったからです。

ものづくり=製造業のイメージからすると、“ものづくり”と“女子”ってなんだか不思議な組み合わせですよね(笑)。ものづくりはもっと柔らかく、気軽にできるものなんだということを、コミュニティを通して伝えたかったんです。これまでの活動でコミュニティの知名度も少し出てきたので、ちょっとは意図していたことが実現できているのではないかと思っています。

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―ものづくりはもっと気軽にできるもの…。確かに近年できているFab施設などを見ると、ものづくりがより身近なものになりつつあることを実感できます!ものづくりの裾野が広がってきている背景には、3Dプリンターなど、ものづくりをするための“機械”が個人用として発達していることも関係していそうですね。

神田:私もそう思います!ものづくりと少し離れてしまうかもしれませんが、私は小さな頃からワープロで書いた手紙を印刷して友達に送ったりしていました。当時、字が上手く書けるわけでもなく、漢字も書けるわけでもない私が、パソコンを使うと、綺麗な字を、しかも、漢字で書けてしまうんですね。これって、よく考えたらすごいことじゃないですか(笑)?

ものづくりでも、同じだと思っています。3Dプリンターが普及し、頭に思い描いたものが3次元でアウトプットできるようになりました。パソコンを使ったデジタル表現と、加工技術が結びつくことによって、こんなにも表現できることの幅が広がるのかと、使ってみたらみんな驚きますよ、きっと。

img_3267▲今は機械を使って気軽に、表現ができるようになった。このロゴもスタジオにあるレーザーカッターを用いて作成したのだそう。

神田: “自分の表現の一歩先に連れていってくれるようなアウトプットができる”。

これが機械を使ったものづくりの魅力であり、楽しさであると思います。機械が小型になり、安価になり、操作が簡単になるにしたがって、工場からオフィス、オフィスからデスクトップ、デスクトップから家庭へと、機械はどんどん私たちにとって身近なものになっていきます。ものづくりの楽しさは、テクノロジーの発達とともに、これからますます広がっていくと思いますね。

「新たな“現象”そして“サブカルチャー”を作りたい」神田さんが今後の展望を語る

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―最後に、神田さんが現在、そしてこれからものづくりにどのように関わっていきたいか、お聞かせください。

神田:ちょうど最近一段落したのですが、総務省が個人に研究開発予算を支給する「異能vation」と呼ばれるプログラムに採択され、支援をしていただいていました。「もっとものづくりを、特に3Dプリンターを女子に広めたい!」という思いから発案した研究テーマは、「3Dプリンターの表面加工技術のレシピ化」。これがとっても大変だったんです(笑)。私自身、3Dプリンターに触れている期間はかなり長いと思っていたのですが、ネイルアートのような、“女性的表現のための3Dプリンターの活用”についての情報って、全然ないんですよ。

この研究で私は、3Dプリンターの素材10種類×仕上げ加工10種類、合計100パターンの活用サンプルを作りました。その一部がこちらです。

inovation2▲PLA樹脂の3DプリントにUVレジン加工やフロック加工、デコパージュ、ネイルアート、漆塗りなど10種類の加工を施した。中央列右が加工前の写真。

神田:このレシピを見た女の子たちが、「3Dプリンターってこんなに可愛ものを作れるんだ!」とか、「こんなに身近なんだ!」と感じて、3Dプリンターを使ってものづくりをするようになってくれたら嬉しいです。

現在の主な活動として、いま取材をしていただいているこの場所を運営しています。Fabカルチャーをもっと身近にすることをコンセプトに作った「Little Machine Studio」という施設です。家庭で使えるSサイズの大きさの機械を集め、「身近にこういう機械が出てきていますよ!」ということを発信しています。予約をすれば誰でも見学したり、使ったりできるので、気軽に足を運んでくださいね。

こうした3Dプリンターの活用研究や、運営施設での活動を通して、ものづくりの新たな“現象”や“サブカルチャー”を作っていきたいなと思っています。

【編集後記】ものづくりの新たな可能性を見出す先駆者として。神田さんの今後の活動に注目

img_3250▲スタジオのサインも神田さんが「最近ハマっている」というカッティングマシンを使用し作り出した。3Dプリンターのような、最新の機材でなくとも、”何かを作る”という行為の楽しさは不変だと神田さんは言う。

神田さんは、3Dプリンター関連の会社、そしてものづくりに関連する数々の活動を通して、“ものづくりは気軽で楽しいもの”という考え方を確立していきました。そしてその考え方は、テクノロジーの発達で機械がより身近なものになるにつれ、概念として浸透しつつあります。「異能vation」「Little Machine Studio」など、神田さんの活動によって、ものづくりに対する新たな価値観が浸透すれば、ますますものづくりは身近なものになっていくのではないでしょうか。

ものづくりをしない方は、「ものづくりってセンスがある人とか、手先が器用な人がやるものでしょ?」と思うかもしれません。そういう方は、一度3Dプリンターなどの機械を使える施設に足を運んでみてください。自分のイメージを、3次元でとびきり簡単に出力できる、”いまのものづくり”のカジュアルさに驚くはずです。

神田さんの今後の活動によって、ものづくりに対するハードルが下がり、子供や女性など、誰もがものづくりを楽しめるような文化が形成されることを楽しみにしましょう。

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神田沙織
3Dプリントサービス運営、ものづくり系女子としての講演・執筆活動を経て2015年株式会社wipを設立、FABプレスルームLittle Machine Studioスタジオマネージャー。セレクトショップLamp harajukuプレス。

著書「3D Printing Handbook」2014年オライリー・ジャパン、他。2015年総務省「異能vation」プロジェクトに採択され研究にも取り組む。夢は工場を建てること。

【website】
Little Machine Studio
ものづくり系女子

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