想いの詰まったデザインで社会を変える。千葉大学の「意匠展」が凄い

想いの詰まったデザインで社会を変える。千葉大学の「意匠展」が凄い


今回は、千葉大学工学部デザイン学科の卒業研究・卒業制作を発表する場、「意匠展」を取材させていただきました。

2015年度の卒業生は、入学以来デザインに関する様々な領域の基礎を学び、さらにその後13の研究室に分かれてデザインに関する研究・制作を行ってきました。その集大成となる意匠展は、プロダクト、環境、コミュニケーション等……多岐に渡るデザインが一堂に集まって発表する場となります。
 

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会場に選ばれたのは「3331 Arts Chiyoda(アーツ千代田)」。

千代田区文化芸術プランの重点プロジェクトの一環として、新たな文化芸術の拠点施設となるように、中学校を利用してつくられたアートセンターです。

館内には、アートギャラリー、オフィス、カフェなどが入居し、展覧会だけでなくワークショップや講演会といった“文化的活動の拠点”として利用されています。入口から入るとすぐに見えるのが、この風景。
 

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学校らしい雰囲気が残る内装と、お洒落なショップが共存している少し不思議だけど居心地の良い空間です。懐かしい学生生活の風景に、異質なものが加わることで新鮮な感覚を生んでいるこの会場デザインは、「もともとあったものをさらに輝かせ、新しい価値を生む」という千葉大生たちのデザインのコンセプトとも心地よくマッチしていました。

以下のセクションでは、「意匠展」のなかから/M編集部がピックアップした卒業研究・卒業制作をご紹介します!

 

構造強度とデザイン性を両立させる「形状創出」を探る

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工学部デザイン学科、製品デザイン研究室の池田篤士(いけだあつし)さん。
研究のテーマは「構造強度保障を伴う形状創出の方法に関する研究」です。

工業製品に安全性の担保が不可欠なことは言うまでもありませんが、その一方で構造強度を保つために多くの製品がデザイン性を犠牲にしているというジレンマがついてまわるもの。そこで、池田さんは3DCGモデリングプログラムを用いて、しっかりとした構造強度を保ちながらも高いデザイン性を両立するためのツールを制作しました。
 
そのプログラムを用いてデザインされた四輪バギーが、以下の模型です。
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デザイナーが横・縦からみたシルエットを最初に指定してから、モデリングプログラムを使用してデザインを生成します。

例えば、スピード感あふれるフォルムや、セクシーなフォルムなど。好みや感性に応じてデザインのイメージを指定していくことで、様々なバリエーションが生成されるのです。

人の頭で考えられるデザインを実現性するためには、クリアするべき様々なハードルがあります。それを打ち破る手段としてこのプログラムは、構造上の強度は足りているのか、本当に乗ることができるのか、エンジンを積むことが可能なのか、などの事項をスムーズに検討してくれるのです。
 

照明を快適に、自由自在に操るコントロールインターフェイス

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工学部デザイン学科、システムプランニング研究室の石村知奈美(いしむら ちなみ)さん。
研究のテーマは「調和のための照明コントロールインターフェイスの提案」

技術の発展に伴って、家庭で使用される照明器具にも様々な機能を持たせることが可能になりました。そのひとつとして、「多色発光ができる電球」が挙げられます。

電球が多色発光するメリットは、単に空間演出の幅が広がるだけではありません。発光色によって環境の向上が期待できたり、発光色の制御を行うことで人のサーカディアンリズム(体内時計)の維持・調整を可能にします。

そこで、石村さんが研究・制作されたのは多色発光電球を「直感的に」分かりやすく操作することを可能にしたインターフェイスです。
 
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電気を点けたり消したりするときは、白塗りの四角い部分を押します。さらに上下を押すことで「光の明暗」を調整し、中央の丸い部分を回すことで「光の色」を決めることができる設計です。
 

スイッチ

 
このように誰でも簡単に”多色発光電球”の調整をすることができれば、より快適で健康的な生活を送ることが可能になるのです。
 

精神疾患を抱える人たちの“生きづらさ”を表現したインスタレーション

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工学部デザイン学科4年生、意匠形態学研究室の小原冬香(おばら ふゆか)さん。
研究のテーマは「生きづらさのかたち」

小原さんは、精神疾患へ理解のある社会に近づくために今できることを考え、どう実践していけば良いのかを研究しています。

精神疾患は、メジャーなものからマイナーなものまで多種存在します。長い歴史の中で、これらの疾患を抱えた人々は差別や偏見の的になり、時には隔離されてきましたが、現代ではメディアで頻繁に取り上げられるようになったことにより少しずつ認知されるようになりました。

しかし、そうした認知の拡大とは裏腹に、精神疾患の症状について当事者以外の人が想像し、共感する機会は未だに少なく、具体的な支援策が語られるまでにはなかなか至っていません。

小原さん自身、精神疾患への理解を深めるための提案をすることに決めたのは、双極性障害の同級生の死がきっかけだそうです。その提案の第一歩として、症状の一つを取り上げたインスタレーションの制作をされました。
 
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作品は、身体が思うように動かせない状態を、腕を表す衣服をロウで固めることで表現したといいます。不自由な状態を察することはできるものの、その苦しみは上辺だけで推し測ることができるような単純なものではない、当人にしかわからない深い苦しみを含んでいる。そう感じさせる作品です。

しかし、この作品だけで精神疾患について人々が理解することはできないだろう、と小原さんは言います。様々な発信のかたちを続けることで、作品形態を変え、自分にできることを検討しその存在を発信し続けることが必要であろうと考えているそうです。

小原さんの取り組みは、まだまだ続きます。
 

一側性難聴者の日常の困難を解決し、流通まで考え尽くされたプロダクト

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工学部デザイン学科、デザインマネジメント研究室の弓場大夢(ゆみば ひろむ)さん。
研究テーマは「一側性難聴者の音源定位問題に着目した音源近くサポート製品の提案」

「一側性難聴者」とは、片側の耳のみに聴力障害をもつ人のことを指します。音源の方向がわからないことによる不便さや不快感など、独特の困難を抱えて生活している一側性難聴者ですが、その存在は認知されづらく、その症状も軽視されがちです。ほんの一例ですが、音源の方向がわからないことは本人にとっては非常に不便で不快なことです。

しかし現在、音源を特定する補聴器は存在せず、今後この分野における研究の発展も望めないと言います。なぜなら片耳の障害では障害者手帳をもらうことができず、福祉製品を買うときに支援を受けられないためです。製品が高額になると一般で購入してもらうのが厳しくなるので、企業にとって一側性難聴者へ向けた製品市場の参入は厳しいという現状があるのです。

弓場さんは、一側性難聴者のために振動をもちいて音源の方向を伝える支援製品を提案しています。
 
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数々の検証や実験を重ね、一側性難聴者の支援製品に必要なのは、“常時装用できること”、“音源を理解して直感的に反応できること”だということが明らかになりました。

そのことから、このプロダクトは常時装用しやすく、機器から発する振動に直感的に反応するため適度に敏感である場所である”首から肩周り”にかけて使えるように開発されました。先端にある銀色の2か所と、緑の部分の両端に2か所、合計4か所にセンサーが内蔵されていて、音源の方向に振動を生じさせることで場所が特定できるようになってます。

この研究を始めたのは、弓場さん自身も片耳に聴力障害を持つからだといいます。当事者の不安を身をもって知り、持っている技術や知識を結集して多くの人を救う可能性を持ったプロダクトです。

さらに、このプロダクトは両耳難聴者やイヤホン装用時の健常者に対しても有用な提案となるため、多くの人が使用できます。対象者が多くなることで一側性難聴者へ届きやすい製品に、と流通まで考えられてつくられています。
 

社会を変える、想いを持ったデザインたち。

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広くスタイリッシュな会場で、熱くデザインについて語る千葉大生。いかに熱い想いがプロダクトに詰まっているかを感じました。

今回は一部しか紹介できませんでしたが、どれも斬新で面白いものばかり。意匠展は毎年開催されるので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

意匠展ホームページ

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