工芸家たちの“才能”が、金沢の街に点在!「金沢21世紀工芸祭」に行ってきた

工芸家たちの“才能”が、金沢の街に点在!「金沢21世紀工芸祭」に行ってきた


“工芸の街”金沢で、街を挙げた一大プログラムが始動しました!
プログラムの名は、「金沢21世紀工芸祭」

日本の工芸を、金沢から世界に発信することを目的に開催されているこのイベントでは、石川・金沢を中心に活動するクリエイター達の、個性あふれるアートと触れあえるのです。そのアート群は、伝統技法に根ざしたもの、全く新しい表現にチャレンジしたものなど、実に多種多様。

2016年10月13日~2017年2月26日まで開催される工芸祭は、「工芸回廊」、「趣膳食彩」、「金沢みらい茶会」、「金沢みらい工芸部」、「金沢アートスペースリンク」という5つのコンテンツから成っています。

今回調査隊がやってきたのは、「工芸回廊」。既に終了してしまっているコンテンツなので、もう見ることはできませんが、金沢の街に展示スポットが点在し、街歩きとともに、様々な工芸に出会える旅に、今回皆さんを招待します!

金沢に到着!

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金沢に到着した取材班がまず訪れたのは、金沢駅よりバスで15分ほどの場所、「ひがし茶屋街」です。

もともと城下町だった場所で、風情ある昔の街並みが色濃く残っています。この小さいエリアに大小様々な展示スポットがひしめきあっており、街並みを楽しみながら、バラエティ溢れるアートを堪能できるのです。いくつかピックアップして見ていきましょう!

先代が成し得なかった、“赤”の表現を確立!九谷焼の新たなページを切り開く

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最初に訪れたのは、「森八 うつわの器店」と呼ばれるお店。ここでの展示のテーマは「伝統と革新」です。

赤と青が織りなす美しいグラデーションに、つい見入ってしまいます。
焼き物を創作したのは、4代目徳田八十吉さん。九谷焼という伝統的な磁器の技法を踏襲しながらも、ご本人の新たなスタイルを確立しているのだそうです。

彼女の作品で特筆すべきは、「赤」の表現。
先代の時代から、試みられていた赤の発色は、技術的な課題から実現が難しかったといいます。道半ばで急逝した3代目の遺志を継ぎ、4代目でついに綺麗に発色させることに成功したのです。
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こちらが彼女が完成させた「緋龍」と銘打たれた作品です。「炎の中から龍が飛び出してくるようなものを作ってほしい」と、寺院から依頼があったのがきっかけだそう。赤という力強さ、焼き物の凜とした風合いが出会い、まさに躍動する龍の生命感が表現されています。

伝統的な技法を守りつつ、そこから独自性を発展させていく。まさに「伝統と革新」というメッセージに相応しい作品です。

工芸品で”食べる喜び”を噛みしめる

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続いては、先程の展示場所から歩くこと数分、「菓舗 Kazu Nakahshima」というお店にやってきました!

深海を彷彿とさせる青。
上品な雰囲気を漂わせる器は、お菓子を楽しむために作られたものなのです。
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作者は川崎知美さん。「お菓子とお酒」、工芸と食文化のコラボにチャレンジしているのだそうです。余計な装飾を一切せず、「青」という色だけで、どれだけ奥行きある美を表現できるかを追求しています。
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川崎さんが大事にするキーワードは「カワイイ」ではなく、「きれい」「かっこいい」です。それだけに、生まれ出る作品にはソリッドな雰囲気が宿ります。このようなただずまいから、彼女の作品は男性からの支持も厚いそう。

「眺めるだけでなく、普段使いしてもらいたいんです。」
川崎さんの言葉からは、“使ってもらってこそ、工芸品は生きるのだ”という、クリエイターの思いを垣間見ることができました。 

橋を渡って次の場所へ!

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次の展示エリアに向かうべく、金沢観光のランドマークの一つ、浅野川大橋を渡ります。
川面に映る逆さ橋が、趣深し!

金沢には、思わず写真を撮りたくなるフォトジェニックなスポットがたくさん。訪れる際には、カメラの用意をお忘れなく!

人がいる空間と絶妙にマッチ!柔らかな布に、機械的な絵画表現を

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訪れたのは、「泊まる」「シェアする」「食べる」をコンセプトに、金沢を訪れる人をもてなすシェア型複合ホテル「HATCHi 金沢」。「ただよふ」というタイトルの展示を見ていきましょう。

作り手は、染色作家の樫尾聡美さんです。
壁に飾られた、立体的な造形が存在感を放っています。そして何よりも目をとめるのは、鮮やかな赤。伝統的な染めの技法から着想を得ているのだそうです。素材の布をキャンバスに見立て、シルクスクリーンのプリントを施して染め上げ、そこから表情をつけています。

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「一見すると抽象的な作品のようですが、細部をよく見てみてください。歯車などの機械的な絵が描かれているんですよ!布ならではの“にじみ”の表現も面白いです。」と、この展示を取り仕切るディレクター・金田みやびさんは語ってくれました。
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カフェという人の活動の場にアートが設置され、自然に人とアートの交歓が生まれる。街全体がギャラリーとなる、本イベントならではの特徴が如実に感じられる展示です。

作品に込められた、痛烈な社会描写。新たな芸術がここに生まれる

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独特な像が飾られた、邸宅にやってきました!
落ち着いた雰囲気漂う「佃邸」に飾られた、造形作家タルタロスジャパンさんの作品です。

金沢21世紀工芸祭のホームページには、「エキセントリックな展示を行います」との記述が。なるほど確かに空間に入ってみると、これまで紹介してきた展示とは一線を画した、荘厳な空気が漂っていました。
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フィギアの原型師だった彼は、表現の幅を広げるために、現代美術という形で彫刻を始めたのだそう。作った塑像を3Dのデジタルスキャンという形で読み込み、デジタルモデリングで細かい造形をして、最終的に3Dプリンターで出力しています。
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こちらの作品「ダビデ」は、ミケランジェロの「ダビデ像」をモチーフにしています。

「日の丸が欠けた日本国旗は、福島を始めとした今の日本の状況をイメージして作っているんです。」と、作品の意図を語ります。手に持つ溶けた赤い玉は、原発がメルトダウンしたプルトニウムを表現しているのだそうです。一番大切なものを握っているのに、どこにも投げられないジレンマが描かれているのだそう。

ポップカルチャーから影響を受けて確立した独特な作風は、見る人に大きな衝撃を与えてくれました。

青白磁とガラス造形。2つの個性が、空間を通じて見事に融合!

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続いて、大樋ギャラリーで行われた展示を見ていきましょう!
場所は、十一代・大樋長左衛門が所有する邸宅兼ギャラリー。今回、展示場所となっている茶室は、本来大事なお客様をもてなす場所で、一般公開はされていないのです。今回の展示のために、特別にオープンにしているのだとか。

ここに作品を並べるのは、陶芸家の八木明さんと、ガラス作家の小田橋昌代さんです。
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まずは八木さんの作品から。
京都在住の八木さんは、陶芸家として青白磁を作り出しています。この美しいフォルムをご覧ください。どんな言葉にも置換できない、柔和な曲線と澄み切った風合い。磁器の知識を持たなくとも、器が放つ美が空気のように心の奥底に届きます。
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「磁器はもろいので、焼き上がるまでは気が抜けないんですよ。」と、八木さん。

すべての工程を含めると、完成までに必要な時間はなんと1ヶ月半。集中力を長時間持続させて、完成へと歩み続けるのは、並大抵のことではありません。展示を共にする小田橋さんは「青い釉薬がほんのりと下地を透かせる見え方が素敵です。私は“丸”という形が好きなので、包み込むような丸い轆轤(ろくろ)にうっとりしてしまいました。」と、八木さんの作品への共感を語ります。続いて、小田橋さんご本人の作品を見てみましょう。

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透明な“ガラス”の美しさが、後ろから差し込む光によって際立っています。
大学時代にガラスと出会った小田橋さんは、人物の造形に興味があり、大学院に進んでから立体で人物を造形するようになったと語ります。

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「見る人が物語を感じられるような作品を作るようにしています。作品から何かインスピレーションを受け取って、“こういったことかな”と、自分の中で物語を紡いでもらうきっかけになれば嬉しい。」と小田橋さん。作品からは、見る人の心を癒してくれるような、まるで親が子に向ける微笑みのような温かさが漂います。

陶芸家の八木さんは、小田橋さんの作品を「私が器をつくるときには、具体的な物語とかは考えたりしないので、とても新鮮です。見る人のイメージを膨らませられるのがいいですね。楽しみながらつくっているのだということも感じます。」と評します。

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異なるジャンルの作品が同じ空間に並ぶことによって、普段出会う機会の少ないジャンルの美にも、偶然出会えるようになっていました!

若手工芸家が集う「金沢卯辰山工芸工房」。工芸の未来を担う作品を紹介!

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所変わって、昭和3年(1928)に酒造業中村家の住宅として建設された、旧中村邸にやってきました。
工芸を学ぶ若者が集う工房、「金沢卯辰山工芸工房」の研修生たちの作品が展示されています。

「染め」「金工」「ガラス」「漆」「陶芸」の5工房から成る、金沢卯辰山工芸工房。自分で研修テーマを設定し、深みを追求していく場で、彫刻から器づくりまで、学ぶことは人それぞれ。

今回は、研修生の有志17名が展示に参加していました。
その中から、2名の作品を紹介しましょう!

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まずはこちらの漆器から。
作者は、工房2年目の木下幸(きのしたみゆき)さん。「器の形と模様を合わせることによって、何か面白いものをつくりたかったんです。今回初めて、複雑な器の形から模様を発想してみました。」といいます。

見ると、器の形に合わせて線が!器の模様を近くで見てみましょう!

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独特の輝きを放つ線が幾筋も。これは螺鈿(らでん)と呼ばれる装飾技法によるもので、表面に虹色の光沢を持った貝を薄く切って加工しているのだそう。光の当たり方によって色が変わるのが特徴で、見る角度によって違った表情を見せてくれます。

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金沢卯辰山工芸工房は、展示会や他の分野の人とコラボする機会があるため、刺激も多いといいます。こうした刺激が今後、どのような作品に反映されていくのでしょうか。

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同じく工房2年目の、常盤耕太さんの作品を見てみましょう!

ガラスを素材につくったこちらの作品タイトルは、「憧空(けいくう)」。飛行機本体やプロペラから、形の着想を得ているのだそうです。ガラスのグラデーションが何とも幻想的。まず原型を作って、石膏型にガラスを流し込んで作っています。

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「ガラスの魅力は外側の線の美しさと立体の内側が見えること。素材自体が美しいので、作家としての工夫を忘れてしまいそうになります(笑)。」と、常盤さん。金沢卯辰山工芸工房では定期的に外部の先生が招聘されるなど、学びの場が多いのだそうです。

工房では、若き工芸家たちが互いに刺激を与えあい、力を育んでいます。「今後の注目株」に出会えるのが工芸祭の魅力のひとつ!

最後は、金沢で美術と言えばココ!という場所に行ってみました!

「デザインと工芸の境目」を見る。深澤直人氏の展示が「金沢21世紀美術館」で開催

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金沢のアートシーンの牽引役であり、大人気観光スポットとして知られる「金沢21世紀美術館」にやってきました!

工芸祭の期間中は、世界的なプロダクトデザイナー・深澤直人氏が監修した「工芸とデザインの境目」。展示のコンセプトはこちらです。

工芸とデザインの境目を浮き彫りにするのが本展覧会の趣旨でありますが、その境目というのは非常に曖昧であります。これは工芸でこれはデザイン、といったように一本の線を引くことは困難です。これは、工芸20% デザイン80%であるというのが説明しやすいかもしれません。この曖昧さを持って、観覧者を揺さぶることに意義があると思います。展示のスタイルとして、「工芸」VS「デザイン」とあえて対立させるという見せ方が基本になると思います。
深澤直人

“工芸かデザインか”という2元論にアンチテーゼを投げかける今回の展示。上の写真のように、さまざまなプロダクトが、工芸なのか、はたまたデザインの産物なのかを視覚的に分類していくのです。「これが絶対の正解でなくてもいいと思うんです。展示を見て『これはもうちょっと、デザイン寄りなんじゃない?』などと、一緒にいる人たちと会話を弾ませてくれたら嬉しい。」と、美術館のキュレーターの内呂博之さんは語ります。

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ここに並ぶのは手作りの日用品ばかり。一見すると工芸と思われてしまいがちですが、デザイン性にも優れています。「工芸でもあり、デザインでもある」と解釈できるため、境界線上に配置されています。

こちらは道具に着目したコーナー。詳しく見てみると…

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道具が並んでいます。左手は「工芸」サイド、右手は「デザイン」サイド。
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手を駆使して使う道具は左に、電動の道具は右に配置されています。工業(デザイン)は、工芸を真似る、つまり手を模倣することからスタートしました。模倣は成功。完成した製品を見ても、私たちはどんな道具を使ってものづくりをしているのか、想像することができなくなっているのです。

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手前が菊練りの土(陶器を作るために練った土)。奥では3Dプリンターが合成樹脂の器を出力しています。「造形する」という人間の力(工芸)は、3Dプリンターという工業機器(デザイン)へと置換されつつある、と見て取れます。

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このブースでは、横軸に同じ道具や器がならんでいます。
異なるのは、「色、形、素材」。これらの要素が、工芸とデザインの比率を決める上で、非常に重要になっていることが、伝わってきます。

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興味をそそるのは、ご覧のようにデザインサイドに配置されていながらも、色によって、”デザインの深度”が異なることを表現しています。

形が全く同じものでも、白・黒のモノトーンに対して、オレンジのものがよりデザインに寄っていることが見てとれるでしょう。また、前後の関係を見てみると、オレンジや赤という色の要素が、お互いに影響を与え合って配置が決められていると、捉えることもできそうです。

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こちらも横軸には、用途の同じものが陳列されています。異なるのは、つくられた“時代”。時系列がいかにして工芸とデザインを規定するのかに注目してみましょう。

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靴の変遷をたどったもの。奥から、草履、足袋、スニーカー。時代とともに、工芸からデザインへと履物が先鋭化していくプロセスが分かります。しかし一方で…

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横軸に並ぶのは「電話」。
昔ながらのダイヤル式電話が「工芸」と「デザイン」の中央に配置されています。そして工芸サイドとデザインサイドの両端にはiPhoneが。時系列だけが、工芸からデザインへの変遷を定義するのではなく、造形そのもの、あるいは造形の背景にある思想もデザイン、工芸の境界に影響することを私たちに伝えます。

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最後のブースでは、広い空間に置かれた大きな造形物が並んでいました。
写真左の隣り合う野面積み石垣とコンクリートの壁に注目してみましょう!

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左側にある石の壁が工芸、コンクリートの壁がデザイン側です。しかし、深澤さんはこの配置に悩まれたようで、石を積み上げていくことにデザイン性を感じて、「逆の配置もあり」と語ったのだそう。このように、デザインと工芸の境目は曖昧です。様々な定義が交錯し、また見る人の来歴や感性によっても、両者の境界は変化するでしょう。見る人に、ものづくりにまつわる思考をいい意味で強制する、まさにインタラクティブな展示なのです。

このイベントは、2017年3月20日まで開催されているので、興味のある方はぜひ一度訪れてみてください。

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『工芸とデザインの境目』
金沢21世紀美術館
住所:石川県金沢市広坂1-2-1
TEL:076 220 2800
日時:〜2017年3月20日。10時〜18時(金曜・土曜は20時まで)。月曜、12月29日〜1月1日、1月10日休(ただし1月2日、1月9日、3月20日は開場)
料金:1,000円。

作品と人。作家と作家。そして街と作品の溶け合いが工芸の街を造形する

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金沢という地で開催されている、「金沢21世紀工芸祭」

そこには、新しい工芸を開拓する人、伝統工芸を追求する人が共生する場がありました。違った分野の創作をする人たちが、同じ場で創作活動を行うことによって、それぞれの分野を認め合い、自信を持って自分の道を進んでいるのです。

また、工芸家たちの作品が街に点在していることによって、私たちは街を楽しみながら作品を見てまわることができるようになっていました。今回紹介した展示のほとんどは既に終わってしまっていますが、金沢21世紀美術館の「工芸とデザインの境目」や、ワークショップ「金沢みらい工芸部」(2017年2月26日まで)、展示企画「金沢アートスペースリンク」(同2月12日まで)など、開催されているイベントはまだまだあるので、興味のある方は、ぜひ一度訪れてみてください!

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金沢21世紀工芸祭

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