“模型は建築家との対話を生む”「建築倉庫」が、日本建築を支える未来

“模型は建築家との対話を生む”「建築倉庫」が、日本建築を支える未来


「建築模型の展示施設がある」

最初にこの事実を耳にしたとき、「一体何のためにつくったの?」という疑問が浮かびました。私たち一般人からすると、建築模型は、建造物を小さくした単なる模型に過ぎないように思えてしまいます。しかし施設に入った途端、予想を超えた体験をすることになりました。

展示された建築模型はただ美しく、言葉では言い表せない魅力を放っていたのです。建築模型を保存し、展示している施設「建築倉庫」はどのような魅力、そして意味を持っているのか。施設を運営する寺田倉庫株式会社の徳永雄太さんにお話を伺いました。

キーワードは「地域活性化」と「外部に向けた倉庫の発信」。建築倉庫ってどんな施設?

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―建築模型をこんなに間近で見るのは初めてです…!ここは、どのような施設なのでしょうか。

徳永:建築家の方々が作った建築模型を管理しつつ、一般向けに展示している「建築倉庫」という施設です!施設を運営している私たち寺田倉庫は、美術品やワインなど、お客様からご依頼いただくさまざまなものの保存・保管を行っている会社。自分たちが管理しているものを外に向けて発信しようということで発案し、2016年6月にオープンしました。

施設があるここ天王洲アイルは、おだやかな水辺に囲まれた魅力的な街です。近年はビジネス街として有名だったのですが、この施設をきっかけに“アートの街”として、たくさんの人が訪れるようになってくれたらいいなという思いも込められています。他にも、ギャラリーや日本画材ショップなどもあります。

―「地域の活性化」と「寺田倉庫が保管するものの発信」という、2つの思いが重なって生まれた施設だったのですね。私たちは普段、建築模型を見る機会があまりないですが、こうしていろいろな模型を見ていると、何だか美術館に来ている感覚に近いものを感じます!

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徳永:それは嬉しいです!“建築模型”と聞くと、どうしても固いイメージを持たれてしまいがちなので、一般の人が気軽に来れるような施設づくりを目指しています。美術館と違って、毎日展示も変わっていくのも面白さの1つです。

建築模型に対して強い思いを持っていらっしゃる建築家を見つけ出して、「模型を展示させてほしい」と何度もアプローチをかけたり、管理がとても大変な模型を保管するために、24時間空調に気を遣ったり、必要に応じて修復作業をしたりと、大変なことはたくさんあるんですけどね(笑)。

建築模型って、専門知識を何も知らなくても、「かっこいいな」とか「美しいな」と感じるじゃないですか。建築模型が持つこうした“アートな側面”を、訪れる人に伝えていきたいと思っています。

建物を通して、人々に豊かな暮らしの提案を。「建築模型」が果たす役割とは

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―施設の運営がものすごく大変そうですね…!建築模型の美しさ、しっかり伝わってきました(笑)!しかし今回、せっかくお話を伺う機会をいただいたので、「建築模型がどのような役割を持っているのか」ということについても伺いたいと思っているんです。

徳永:分かりました!では、ちょっと質問させていただきたいのですが、建築家というのはどんな仕事をしている人だという印象がありますか。

―建築家ですか…「建物をつくる」仕事をする人、ですかね…!

徳永:おっしゃる通り、建築家は建物をつくる仕事をしています。でも、それだけじゃありません!建築家は、建物をつくることによって、“街づくりやライフスタイルを提案”しているんです。建物をつくる上で必要なものとして「図面」がありますが、2次元の図面だけでは、街づくりや人々のライフスタイルは見えてきません。

模型はそういったことを、見る人に一目で伝えることができるんです。こちらの模型をご覧ください。

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徳永:これから建設される予定の、震災で津波の影響を受けた釜石市の小学校の改築模型です。この模型をよく見てみると…

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―中に人がたくさんいますね!動きがあって、何だか楽しそうです。

徳永:そうです!建築家の方は、ただ建物をつくるだけでなく、建物を通してどのように人々の生活を豊かにするかということも考えているんです。この建物でいうと、被災した地域に、子供たちの笑顔が溢れる空間を作りたいという建築家の思いが表れています。

日本建築は、建物を周りの環境や人々に融合させるのがとても上手く、世界的にも高い評価を得ています。建物が人々の暮らしに与える影響は、3次元の模型がつくられて初めて具体的な形となって見えてくるもの。また、模型は実際に建物が建てられるまでに、いくつも形を変えながらつくられるため、建築家の思考の過程やプロセスをたどるのにも役立ちます。

「建築模型が持つ役割」という質問に話は戻りますが、そういう意味でも、建築家の考えを具現化し、誰かに伝えるためのコミュニケーションツールであるというのが模型の大きな役割と言えるのではないでしょうか。

近年見直されてきた「建築模型」の保存の重要性。“過去から学ぶ”ために

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―なるほど。こうして見ていくと、建築家がどのような思いで建物をつくっているか、私たち一般人でも何となく感じ取ることができますね!建築模型は、新たな建築を生み出す際の貴重な資料になり得るのではないでしょうか。

徳永:おっしゃる通りです!でも残念なことに、これまで日本には、建築模型を保存しようという考え方が根付いていなかったんです。建築が盛んな海外の国では普通に行われているのに、不思議ですよね(笑)。近年、建築の世界でも“過去から学ぼう”ということが叫ばれるようになって、ようやく保存の重要性が認識されるようになってきました。

模型がなければ、建物がなくなった後に残るのは図面と写真だけ。図面と写真を見ただけでは、建築家の意図まで感じ取ることは難しいので、本当の意味で過去から学ぶことはできません。この施設によって、建築模型を保存する文化を育てたいと思っています。

建築家との対話によって、未来の建築家へ刺激を与える

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―建築模型を保存することが、後世の人に建築家の考えを伝え、より良い建築を生み出すことに繋がっていくのですね。一見無機質に感じられる建築模型が“対話”という役割を果たしているというのは、何だかとても素敵な話です。

徳永:そうですよね。模型が持つ対話としての役割は、ここを訪れる学生に対しても果たしています。施設を訪れる人の中には、建築を学んでいる学生が多くいらっしゃいます。そういう学生さんたちが施設を訪れると、「改めて、建築家になりたいと思った。」とTwitterで投稿してくださる方が結構いるんですね。建築家の思いを学生や子供たちに伝えることによって、未来の建築家に刺激を与えるきっかけになったら、これ以上仕事冥利に尽きることはありません。

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建築模型を保存し、建築家の思いを外に向けて発信する。
これを「建築倉庫」という施設で続けていくことによって、建物を建てるための貴重な資料として、そして建築家を志す人へ刺激を与える手段として、今後の日本建築の発展に少しでも貢献していきたいです。

【編集後記】建築模型の保存・展示は、建築家との対話を生み、未来の日本建築の発展を支える

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建築倉庫は、建築について何も知らない人が訪れても、建築模型の美しさ・アート性に触れて楽しむことができます。

しかしそれだけでは、この施設の魅力は語りつくせません。建築模型という、建築家の思考を具現化した産物を保存し後世に残しておくことは、新たな日本建築を生み出す上で貴重な資料となるとともに、現在の建築家や未来の建築家に大きな刺激を与えているのです。

日本建築の未来は、今の建築を後世にどれだけ伝えられるかにかかっていると言っても過言ではありません。“日本建築のいま”の集積地である建築倉庫に、ぜひ皆さんも1度足を運んでみてはいかがでしょうか。

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建築倉庫
住所:140-0002 東京都品川区東品川 2-6-10 寺田倉庫本社ビル1F
開館日:火曜日〜日曜日 (月曜日休 ただし月曜日が祝日の場合は翌火曜日休み)
開館時間:11:00-21:00(入館は閉館時間の1時間前まで)

入館料:一般 ¥1,000 高校生以下および18歳未満 ¥500 未就学児以下 無料
15名以上の団体は、入館料からそれぞれ200円割引
※障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料
※それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。

TEL: 03-5769-2133 FAX: 03-5769-2134
E-mail: info@archi-depot.com

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