“21_21DESIGN SIGHT企画展「建築家 フランク・ゲーリー展 “I Have an Idea”」 ” 東京ものづくり巡り

“21_21DESIGN SIGHT企画展「建築家 フランク・ゲーリー展 “I Have an Idea”」 ” 東京ものづくり巡り


東京のさまざまな場所で開かれる建築やデザインに関するイベント。ライターをしているEさんが運営しているブログ「a+e」に掲出したもののから、ものづくりと関係の深いイベントレポートをピックアップしてご紹介します。

“21_21DESIGN SIGHT企画展「建築家 フランク・ゲーリー展 “I Have an Idea”」”

21_21DESIGN SIGHTで企画展「建築家 フランク・ゲーリー展 “I Have an Idea”」が2015年10月16日から始まった。同館で大規模な建築展が開催されるのは、開館した2007年の特別企画「安藤忠雄 2006年の現場 悪戦苦闘」以来。
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展覧会ディレクターを田根剛氏が務め、会場構成を田根氏が共同代表を務める設計事務所 DGT.(DORELL.GHOTMEH.TANE/ARCHITECTS)が手掛けていることでも話題。会期2日めの午後には、田根氏のレクチャー付きで会場を巡る、90分間のギャラリートークが開催された。

フランク・ゲーリー(Frank Gehry)は、1929年カナダはトロント生まれの建築家。現在は米国ロサンゼルスにスタジオを構える。建築界の巨匠をフィーチャーする本展の見どころは「I Have an Idea」に集約される多彩なアイデア、その数々の成果
(参考:同展公式サイト「ディレクターズ・メッセージ」)。
「会場には、いわゆる建築展にみられるような図面は一枚もない。デザインをテーマに掲げる美術館で開催するのだから、ゲーリーのアイデアをみせる展覧会にしたかった」と田根氏。さらには「昨今の建築界はネガティブな話題ばかり目立つが、ポジティブな思考から生み出されるのがアイデア。これからの社会や世界を変えていくものだ」と明快に語った。
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受付前で無料展示されている縮尺1/50模型は後述。
地下にある展示会場は5つの章立てで、地下ロビー空間で展開されているのが「ゲーリーのマスターピース」。
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スペイン、米国、フランスに建てられたゲーリーの代表的な3作品の内外観を撮影した映像が、ロビーの壁面に投影され、圧倒的な迫力で来場者を包み込む。

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ループ上映される映像は、《ビルバオ・グッゲンハイム美術館》,《ウォルト・ディズニー・コンサートホール》,《ルイ・ヴィトン美術館》の内外観(撮影:LUFTZUG|facebook)。「建築とは本来、その場で体感するもの。今回はLUFTZURGの遠藤豊さんの映像の力を借り、少しでもゲーリー空間を疑似体験してもらえれば」と田根氏。
セパ穴跡が残るコンクリート打ち放しの壁に、ゲーリー建築を覆う金属パネルが、またある時は別の内部空間が映し出される。本展と安藤建築との対話であり、かつ、建物の内部である壁にゲーリーの外壁が重なることで、建物は内部ありき、居心地の良い人々を安心させる空間をつくるために外部が存在するという、ゲーリーが訴求し続けている理念も同時に表現している。

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21_21 DESIGN SIGHTのディレクターである三宅一生氏から今回のオファーを受けた田根氏は、2013年の暮れにゲーリーの事務所(Gehry Partners, LLP.)を訪問、その際にゲーリーは自身の”マニファスト”を目の前で読み上げてくれたのだという。「ゲーリー・ルーム」と題したギャラリー1会場でループ上映されているのがそのシーン(展覧会公式サイトでも同じ動画を公開中)。読み終えた後、チラと映る巨匠の笑顔がなんともチャーミング。

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会場ではそのマニファストの原文と和訳の両方が並んでいる。

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手で紙をクシャと丸めて伸ばしたようなものにマニフェストを記しているのは、ゲーリーが活動の拠点をおく米国で人気のTV漫画「シンプソンズ」の放送回のなかで、《ウォルト・ディズニーコンサートホール》の特徴的な外観を揶揄されているエピソードをリスペクトしたものだろう(ゲーリーを模したキャラクターの声を、なんとゲーリー自身があてている)。

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「シンプソンズ」のアニメ、映画やドキュメンタリーなどに登場するゲーリーの姿は、レトロなモニター画面に繰り返し映し出される。会場で腰掛けられるチェアは、ダンボールを素材とした「イージー・エッジ・シリーズ」。ゲーリーが注目されるきっかけとなったもので、1970年代前半の頃。建築家としての評価を高めたのはその後、1978年に49才で手掛けた自邸の増改築であった(参考:10+1web公開論考「魚座の建築家、フランク・ゲーリー」五十嵐太郎)。

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自邸の内部を映像で見ると拍子抜けするくらいフツーに感じられたが、模型をグルリとひと周りしてみると、ゲーリーだなぁと納得。

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ギャラリー1での展示タイトルは「ゲーリー・ルーム」。彼のオフィシャルな側面とプライベートの面を1つの空間で比較している。ゲーリーの思想、信念、知られざる人間性の一端に触れる部屋だ。アイスホッケー好きを物語る名前入りユニフォームや、今日でも時おり手に取るという書籍が数冊(日本関連書もあり)、お気に入りの絵画、スケッチなどが壁を飾り、平台には(ギャラ間の「藤本壮介展」で目にしたような)スタディ模型が並ぶ。本展のテーマである”idea”の原石が、ゲーリーのスタジオには溢れているらしい。巨匠はこれら日々の”雑然としたものからインスピレーションを受ける”(”カッコ”内は場内展示より一部引用)。次の展示室・ギャラリー2会場の5-6倍の床面積、天井高は約2倍というゲーリースタジオの様子は、大判写真と動画で紹介されている。

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雑多なようでいて、プロジェクトチームごとの配置になっているスタジオでは、初期から最新に至る全ての模型が保管されている。変遷が一目でわかるように並んでおり、出所したゲーリーのチェックを受けるそうだ。本展で観られる模型は、約120名のスタッフが働くこの空間から生み出されたもの。上の画の模型は《ル・ルボ脳研究所》の最終形に近いもの。

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人間・ゲーリーに触れる、暖かみのあるライティングのギャラリー1から一転、多数の模型をみせるギャラリー2の照明は白色が強め。ここ数年に竣工した、あるいは竣工予定の6つの作品にフィーチャーした展示。

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導入部の壁に大きく掲出されているのが、田根氏が考えた、ゲーリー作品の要素を相関図で示した「アイデアグラム」。

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ギャラリートークの場で田根氏が興味深い指摘をしていた。意訳すると、ゲーリーは自作を語る場面において、決して「自分の建築(architecture)は〜」と云わず、決まって”bulding”を使う。つくっているのは”building”であり、”architecture”とは後世の歴史が名付けるものだとゲーリーは考えているそうだ。

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展示台の殆どはハコを積み重ねたような形状で、誘導矢印にそって一周すると、初期のアイデアにさまざまな検討と変更が重ねられて竣工に至ったのか、一連の流れをざっくりと追えるようになっている。2010年にラスベガスに建てられた《ル・ルボ脳研究所》の始まりは、ゲーリーが重視する内部空間のスタディから。

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模型は高低差をもって展示されている。見上げたり見下ろしたり、さまざまな角度からゲーリー作品を眺めてほしいという田根氏のアイデア。各展示物の周辺には、その展示に最も近いと思われるゲーリーの言説が添えられている(企画協力:瀧口範子)。会場を周遊する歩みに呼応して、金属の外皮を思わせる銀の文字がキラリと光る。

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オーストラリア・シドニー市に2014年に竣工した《UTS(シドニー工科大学)ドクター・チャウ・チャク・ウィング棟》の模型が並ぶ展示台。

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キャプション:”流れるような自由な形状を外壁にしてみたアイデア”

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目を惹く外壁に注目が集まるゲーリーだが、考え方としてはなによりも主は内部空間であり、外壁はあくまで従。場内に掲出された複数のテキストも語る。”内側から建築をつくる”、そして”内側と外側は互いに呼応するもの”だと。外装材が波うつ《UTS》の模型のひとつにも、”内部空間と家具の配置をこの模型で考える。”というキャプションが付く。

下の画は、注目されることが少ない、ゲーリー作品における「インテリアのスタディ」をまとめた展示。
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ゲーリーは過去に家具のデザインも手掛けており、場内には実物展示もあり。前述したように、建築よりも家具が先に脚光を浴びたため、建築家と見なされなくなることを懸念したゲーリーは10年ほど家具のデザインから遠ざかった。
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4点のうちひとつは、キービジュアルでゲーリーが座ってくつろいでいるチェア。

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2012年竣工《メイク・イット・ライト》の展示は台1つに集約。2005年に米国ニューオリンズを襲ったハリケーン・カトリーナの猛威は未だ記憶に新しい。俳優のブラッド・ピットが立ち上げた、復興住宅の建設を支援する Make It Right 財団によって現在、目的の2/3である100軒が建ち、そのうちのひとつをゲーリーが設計している。

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上の画、奥:2011年にニューヨーク市マンハッタン島南東部に、高さ76階で建てられた《エイト・スプルース・ストリート》の展示台。旧称「ビークマン・タワー(Beekman Tower)」。
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旧《ビークマン・タワー》の外壁パネルの総数は10,272枚、にも関わらず使っているパネルは3種類だけ。このような超高層、複雑な”外皮”を纏うビルディング建設を可能にしているのは、ゲーリー・テクノロジーズ(Gehry Technologies)と呼ばれる技術集団の存在だ。ギャラリー2会場の一角で流されている解説動画(製作:WOW)に拠れば、ゲーリーは1989年にヴィトラ・デザイン・ミュージアムで手掛けた作品で、転機となる”失敗”をしている。3Dソフトで作図した螺旋階段が図面通りに施工されたにも関わらず、現場で誤差が生じたのだ。似たような自由曲線の製造方法を調べたゲーリーは、航空宇宙工学の領域で使われていた3D-CADソフト「CATIA」に着目、これを応用させた。続く1992年のスペイン・バルセロナでは、魚を模した複雑な形状の作品を見事につくり上げている。頭の中で3Dで考えたものを→2Dの図面に書き直し→その2Dを元に3Dのビルディングをつくる=従来のプロセスから「2D」部分を無くすことによって、工期は大幅に短縮し、ミスの発生を抑えられる精密な現場管理が可能に。削減できた費用はデザインの価値へと転化される。

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総床面積4万平米、端から端まで歩くと15分もかかるという《フェイスブック本社 西キャンパス》も、ゲーリー・テクノロジーズにより、設計依頼からわずか3年で今年竣工している。もちろん見積もった予算内で。一般的にBIMと呼ばれるこのシステムは、米国ではゲーリー事務所以外にも使われている(関連:NHK特番「ネクストワールド」視聴備忘録)。どの部品がいつ耐久性能の限界を迎えるかまで事前に把握できるゲーリー・テクノロジーズは「未来を見据えたシステムである」と田根氏。前述の「アイデアグラム」の3大要素のひとつ”technology”は、ゲーリー作品を根本を支えるシステムであり、日本の今後の建築界、社会の行く末を占うものだろう(場内で唯一撮影不可となっている映像資料を見ながら、昨年夏より物議を醸している2020年五輪大会の某競技施設もコレなら・・・と思った人は少なくないはず)。

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2012に設計を開始し、2018年にフランス・アルル市に竣工予定の「ルマ財団」の模型群。その奥のスクリーンでは、デジタル技術を駆使して設計された建物が、人間の手によって造り上げられていく光景が映し出される。

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さて、ゲーリーといえば、やはり外壁を抜きには語れない。各種マテリアルの豊かな表情を切りとった写真パネル(撮影:アンドリュー・プロコス)と並んで、金属板「発色チタン」の実物展示がある。

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中央のゴールドと向かって右端のピンクは、2006年竣工《ホテル・マルケス・デ・リスカス》で使用された発色チタン、青いものは2000年《コンデ・ナスト本社》にて。これら発色チタンは新日鉄住金株式会社製。ナノ単位で厚みの調整が可能なコーティング技術により、見る角度によって色味が変化し、独特な光の反射となる。

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この3枚の金属板は、正面と斜めからの眺めを比較すべし。

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「他の分野と比べて建築が持つ希有の特徴は、空間を包み込んでいるということだ。私が、外皮の操作に熱中するのも、多分そのためだろう。絵画や彫刻とは違うんだ。」

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ギャラリートークの最後に、田根氏は参加者からの質疑にも応じた。ツアー冒頭で「ゲーリー作品が大好き」と述べ、そのきっかけを問われて、そもそもはガウディが大好きで建築を志した田根氏は、進んだ大学の洋書セールでゲーリー作品に出逢い、こんな建築があるのかと強いショックを受けたのだそうだ(ガウディとゲーリーが結びつくのかと、聞いたこちらも軽いショックを覚えた)。
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2013年12月から本展の準備に取りかかった田根氏によれば、ゲーリー作品を読み解く時、キーワードとして浮上するのが”魚”とのこと。ゲーリーが前述の階段施工で苦渋をなめた後、リカバリーに成功したのが《FLYING FISH》という名のオブジェ(そういえば、ティファニーのためにゲーリーがデザインしたアクセサリーにも”FISH”がある)。
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場内の年表によれば、これまでに発表されたゲーリー建築は約150。これを多いとみるか、少ないとみるか。遅咲きの巨匠の言説は会場の最後まで続く。
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ゲーリー作品を書籍の見開きでみせる。
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閲覧コーナーのテーブル天板はダンボール製。
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見逃した言説や模型、ゲーリーの”idea”は多々あるに違いない。濃く、刺激的な時間を甘受し、疲労困憊気味に会場を辞す際には後ろ髪をひかれた。
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1階受付前に展示された《ルイ・ヴィトン財団》縮尺1/50模型。上の画は日中、下の画は館内照明に照らされた日没後のもの。帆船のようであり、鯨のようでもある。
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なお、表参道にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京では、2015年10月17日から2016年1月31日までの会期で「パリ – フォンダシオン ルイ・ヴィトン建築展」が入場無料で開催されている(2015年12月31日は18時閉場、元旦休み、開廊:12-20時)。

21_21DESIGN SIGHT「建築家 フランク・ゲーリー展 “I Have an Idea”」は2016年2月7日まで。開館は10-19時。地下の企画展会場は有料。休館日は火曜(但し、2015年11月3日は開館)と年末年始(2015年12月27日-2016年1月3日)。
なお、本展が終了する2月の末日に、1929年生まれの巨匠は御年87才を迎える。

21_21DESIGN SIGHT

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